仕事を終え、新幹線の中でお弁当を食べるために品川駅で手を洗った。しっかりきれいに洗いたかったので、指輪を外し洗面台に置いて石鹸を付けて洗った。…のが間違いだった。何社もまわった展示会の資料や、車内で食べるお弁当や飲み物にデザート…と、たくさん荷物を持っていて、しかも時間もギリギリだったので、とても急いでいた。指輪をそのまま洗面台に置いたまま、新幹線に乗ってしまったのだった。結婚当初、お金がなくて結婚指輪は買っていなかった。そのまま16年経って1年ほど前に買ったばかりのものだった。
暗記で覚えている限りのお経を心で唱え、トータルで10数年通った、カトリックやプロテスタントの幼稚園や学校で教わった通り、思いつくままこれまでの懺悔をし、神様、仏様を総動員して、どうか心ある方に見つけていただけますように。と祈った。
次の日、あなたの失くされた指輪の特徴を教えてください。と連絡が入った。ドキドキしながら特徴を伝え、そういえば結婚記念日を刻印していたはず!と思い出したものの、普段から記念日とかに興味がない上に、勢いで夜遅くに思い立って区役所に婚姻届を出しに行ったものだから、自分の結婚記念日すら覚えていない事にこの時初めて後悔しつつ、なんとか特徴を伝えた。
「おそらく、私の目の前にあるこれでまちがいないでしょう。」
夢のような言葉が返ってきた。拾っていただいた方にお礼を言いたいので連絡先を教えていただけませんか?と尋ねたところ、50代の女性でお名前はおっしゃられなかった。見たところ結婚指輪かと思うので失くされた方はとても困られているのでは…と届けてくださった。との事。
直接お礼を言うことができなかったので、その方が今なにか困られていたり、悩まれていることがもしおありだったら、それがいい風に解決しますように。その方にとって、良いことが起こりますように。と、その方を想って一生懸命お願いをした。
1年経ったら誰でも誕生日はくるねん。と、今年も夫からのサプライズはやっぱりなかったけど、今年は神様からお誕生日プレゼントを貰ったような気がした。

image