先日、とうとう私の大嫌いな言葉、”ストレージがいっぱいです”が久しぶりに携帯の画面にでてきてしまった。やれやれ、またあなたにお目にかかってしまいましたね…と思いながら、半年くらい前まで遡って保存していた写真を消す作業をしていたら、去年の冬に「サヴィニャック パリにかけたポスターの魔法」を美術館に見に行った時の写真が出てきた。レイモン・サヴィニャック(1907-2002)はフランスを代表するポスター作家。シトロエンやジタンのポスターなどが有名ですね。

お店をオープンする為の資金を貯めていた20数年前。同じ家賃で、国道沿いの1階、新築でまだビニールクロスの匂いが微かに残る、日当たりのあまり良くない小さな小さなワンルームか、目の前は海、角部屋で3方向が大きな窓という高台にある昭和のオンボロアパートか悩んで、景色のいいボロアパートを選んだ。あまりにお部屋の中が悲しいので、洗面所やキッチンの白の塗り壁に、サヴィニャックのカラフルで陽気なポストカードをたくさん貼り、少しでも楽しい気分になるようにしていた。お部屋からは神戸の海が一望できて、お天気のいい日は窓を全開にしてきらきら光る青い海面とサヴィニャックの赤や黄色の色とりどりの世界がずーっと遠くまで広がって、気分はもうプロバンスに居るようだった。拾ってきた椅子は白いペンキで塗り、手作りのダイニングテーブルには赤と白のギンガムチェックのテーブルクロス。その上には外国のかわいいパッケージのジャムの空き瓶やフルーツの空き缶に、道ばたに咲いている野の花を飾っていた。サヴィニャックは、辛い時期を明るく楽しい気分で日々過ごさせてくれた、私の心の恩人でもある。

ふと見ると、この前で1人、じっと佇む50代半ばくらいの女性がいた。「よかったらお撮りしましょうか?」と声をかけると、「ほんと?ありがとう〜!」と小走りでそこへ向かわれ、満面の笑みのいい写真をお撮りする事が出来た。「あなたも絶対撮った方がいいわよ!撮ってあげる。(携帯を)貸して!」と言われるので、撮る気は全然なかったのだけど、「そうですか…じゃあ、、お願いします。」と撮ってもらった。すると、私のバッグを指差しながら「あ!エッグバッグ!私も持ってるのよ。(お店のある方向を親指で差しながら)神戸で買ったのよ。ミナよね?いいよねぇ〜。」と言われるので、「そうですよね、かわいいですよね。」と笑顔で返すと、「ミナはテキスタイルに特徴があって、デザイナーは男性でね…」と、ミナ ペルホネンのブランド説明をし始めてしまった。どうしよう…と一瞬思ったけど、ここはもう、そこまで詳しくは知らないというていで聞くしかないなと思い、「へー、そうなんですね、ふーん、そうなんだ〜」とひとしきり反応した後、いやいや待てよ、こんな感じで聞いてるけど、もしこのお方がお店に来られて、私がしれっと立ってたら、それって…、、はっ!あかん、あかんあかん!絶対あかーん!と途中で気付き、で、なんの隠蔽なのかわからないけど、とりあえず気まずい事になるのを避けたいという一心で、次の日からこの日と同じ服でお店に行かないようにしてみたりした。

でも、純粋にミナが好きという事が充分に伝わって、凄く嬉しい気持ちにもなった。ミナもサヴィニャックも、見た人が笑顔になり一瞬で虜になってしまう魅力がある、という点では同じかもしれない。

コート、タイツ、バッグ(ミナペルホネン)ニット帽(ヒトミシノヤマ)靴(ショセ)

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